メルケル前首相に学ぶ「心の向き合い方」

 

最近、ドイツのメルケル前首相のドキュメンタリー番組を観ました。

(正確には、メルケル氏を含め、3人のドイツ人女性のドキュメンタリーですが)

 

これまで、メルケル氏がどういう方か、全く存じなかったのですが、

とても素晴らしい人間性で、ドイツは良い指導者がいたのだなと、

心打たれました。

 

ここ数か月、

メルケル氏がまだ首相であったならば、プーチン大統領はウクライナに侵攻しなかったのでは

という記事を、よく目にしますが、それも頷ける内容でした。

 

メルケル氏は昨年12月、16年務めた首相の座を退きます。

 

その時の退任のスピーチを聞き、

心の向き合い方と、共通する部分があるな

と思いました。

 

今回は、メルケル氏がどういう人であったかをご紹介しながら、

メルケル氏に学ぶ「心の向き合い方」

をお伝えしたいと思います。

 

 

メルケル氏が政治家になった、いきさつ

メルケル氏は、西ドイツで生まれた後、すぐに両親が東ドイツに引っ越し、東ドイツで育ちます。

当時、独裁政権下にあった東ドイツでは、秘密警察が人々を監視し、

盗撮・盗聴は当たり前であったようです。

 

民衆がお互いを通報することも奨励されていて、

若かりし日のメルケル氏は、いつも監視されているような、息苦しさを感じていたそうです。

 

東ドイツでは数少ないエリートの1人として、物理学の研究職につくものの、

研究を淡々とするだけの、先の見えない暗たんとした気持ちで青春の日々を送っていました。

 

そんな未来が見えない35歳の時、ベルリンの壁が崩壊。

ドイツは統一を果たし、東ドイツに民主主義がやってきます。

 

初めて自由を目の当たりにしたメルケル氏は、物理学を捨て、政治家の道に進むことを選びます。

 

時代も、メルケル氏を歓迎したのでしょう。

でも、それ以上に、メルケル氏の人間力の高さが評価され、

トントン拍子で要職に抜擢されていきます。

 

面と向かって罵倒されても、優しい笑顔を浮かべ、

公開討論の場で、他の政党の党首にさげすまれた言葉をかけられても、理性的に的確に反論する。

 

冷静で、理性的。

でも人間味があり、まさに、「リーダー」と呼ぶにふさわしい人間力の持ち主です。

 

 

「民主主義を守る」ことに人生を捧げる

メルケル氏は、16年間の首相時代、一貫して民主主義を守る姿勢を示しました。

それが、最もよく表れていたのが、2015年。

 

アラブの春に端を発した内戦が激化し、

中東やアフリカから、数十万人の難民がヨーロッパに押し寄せてきます。

 

ヨーロッパ各国が受け入れを拒んでいた中、

いつもは慎重に物事を進めるメルケル氏が、素早く決断して、難民を受け入れます。

 

ドイツは、難民を追い返さない

 

 

しかし、この難民受け入れは、国内から反対の声が多く上がりました。

特に、経済的に困窮する旧東ドイツの人々は、難民に仕事を取られることを恐れ、

メルケル氏のことを「裏切者」とまで呼ぶようになります。

 

そんな国民に対し、メルケル氏はこんな呼びかけをします。

 

親愛なる国民の皆さま

1989年、東ドイツで毎週月曜日に、何十万もの人々が、子供たちに恐怖の中で育つことを強いた独裁制に対して、反対の声を上げました。

今、戦争と危機の結果、多くの人が文字通り、死と隣り合わせになっています。

私たちの国に保護を求める人々を助け、受け入れることは、当然のことなのです。

 

結果、ドイツは、1年間で100万人の難民を受け入れました。

 

 

メルケル氏の首相退任スピーチ

民主主義に人生を捧げたメルケル氏の、首相退任時のスピーチに、

学ぶべきポイントがありますので、ご紹介したいと思います。

 

連邦大統領、連邦議会議長、閣僚の皆さま、御臨席のみなさま、市民のみなさま

 

本日ここで皆さまの前でお話しさせていただくとき、特に感じるのは、感謝謙遜の気持ちです。

これほど長きにわたり、務めさせていただいた首相職に対する謙遜の気持ちと、

私に与えてくださった、信頼への感謝の気持ちです。

 

信頼は、政治における最も大切な資本です。

これら全ては、当たり前に得られるものではありません。

心からの感謝を申し上げます。

 

まず、メルケル氏のスピーチ全体には、

謙遜・感謝・信頼

の3つが、貫かれています。

 

これは、心と向き合う時も、とても大切な要素です。

 

謙遜感謝が、心の安定・成長に大切なことは、言うまでもないでしょうから、割愛します。

 

今回、取り合げたいのは

信頼

です。

 

心を成長させる際にも、「信頼」は、非常に大切な要素になります。

 

「苦しみ(生きづらさ)は、超えることができる」

と信頼する。

 

「自分は、苦しみ(生きづらさ)を超える力を持っている」

と信頼する。

 

この信頼が無ければ、心の揺れ動きに安易にハマり込んでしまい、苦しみは大きくなっていきます。

 

仏教では、この「信頼」のことを「信」と表して、修行に大切な要素として説明します。

この「信」は、修行していくと、苦しみを滅することができる「智慧」に変化していきます。

 

智慧が生じる前は、法や自分自身を信頼して、励まなければなりませんが、

ひとたび、智慧が生じれば、もう、苦しみそのものが、生じなくなるのです。

 

カウンセリングを受け始めた方には、まず改善方法と自分自身を信頼して頂き、心に向き合って頂きます。

 

始めの頃は、

「これで良いのだろうか?自分にできるのだろうか?」

と信頼が揺らぐこともあるでしょう。

 

でも、だんだんと生きづらさが楽になっていくと、

「あー、これで良いんだ!こうすれば良いんだ!」

と、納得できる、理解できるようになります。

 

これが、仏教で言うところの智慧ですね。

 

この状態になるまでは、「信頼」して精進することが、大切になるのです。

 

さて、メルケル氏のスピーチに戻ります。

 

波乱に満ちた、挑戦的な16年間でした。

政治的にも人間的にも、全力を求められた、充実した日々でした。

ねたんだり、悲観したりせず、希望をもって目的に向かえば、未来は必ず開かれる。

私は心の中で、いつも、このことを守ってきました。

それは、東ドイツ時代であっても

その後、つかみ取った自由の下でも・・・

 

人生では、辛いこと、思い通りにならないことが、たくさんたくさん起こります。

 

そういう時、人は、心を見つめるのではなく、

思い通りにならない人生をねたみ、悲観しがちです。

 

でも、どんな時でも、心を見つめることで、安らぎを得られます

 

自分の内外に何が起きようが、

冷静に心を見つめることで、未来は開かれる(心は安定する)

のです。

 

東ドイツ時代に味わった独裁制や、秘密警察による盗聴の経験から、

民主主義は私にとって特別なことであり続けています。

この国に自由が向こうからやってきたのではなく、私たちが勝ち取ったのです。

私たちは、民主主義を守らなくてはなりません。

民主主義は、いつもそこにあるものではないのです。

 

私が、一番、心打たれたメッセージです。

 

民主主義と同じく、

心の安定も、放っておけば向こうからやってくる

という訳でも、

 

心の安定が、いつもそこにある、

という訳でもありません。

 

心を安定に保つためには、常に、それこそ死ぬまで、精進する必要があります。

 

うっかりすれば、すぐに、心はとっ散らかってしまいます。

 

民主主義が、当たり前にあるものではないように、

心の安定も、当たり前にあるものではないです。

 

やはり、相応の修練・訓練の積み重ねが大切なのですね。

 

ぜひ皆さん、心の安定のために、信頼しながら、日々、精進していきましょう!

 

メルケル氏の退任時のスピーチ、ご興味ある方は、ググってみてくださいね。